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その翌日から、ボクは自分の部屋の物を箱に詰めたり、学校の先生や友達に挨拶に行ったりと、忙しく過ごした。
結局、色々な関係で、引っ越しは一週間後に決まった。
王都に行く理由は、リーリムさんの仕事の都合らしい。
昔働いていた研究施設から、職場復帰の要請があったんだとか。
要請というより、命令なのかな?
学校の先生が言うには名誉なことらしいけど、リーリムさんはずっと浮かない顔だ。
「すまないね、アリル。急なことで」
晩ご飯の時間に、リーリムさんは言った。
「しょうがないんじゃない? 急に決まったんでしょ?」
ボクが言うと、リーリムさんは歯切れ悪く
「うん……」と答えた。
「何より、シェンナちゃんと離れ離れにしてしまうのが一番申し訳なく思っている。君たちは、本当に兄弟のようだから」
「兄弟ねぇ」
シェンナとボクは、三歳からの付き合いだ。
ボクらが隣に引っ越して来てから、ずっと一緒に過ごしてきた。
だから、ボクのヘンなところとか、全部知ってる。
前に「気持ち悪くない?」って聞いたら、「別に?」と言っていた。
「アリルはそういうものだと思ってるから、男とか女とかどうでもいいよ」
だって。
そういう気楽な相手が近くにいなくなるのは、やっぱりちょっと心細い気はする。
これからはずっと、男の子として振舞わなきゃいけないんだろうなぁ。

引っ越しの日荷馬車に荷物を預けた後で、ボクはシェンナの家を訪ねた。
シェンナはあの日からずっと不機嫌で、ボクが話し掛けても適当に相づちをうって、すぐにどこかに行ってしまう。
最後までちゃんと話せないままで、お別れするのは嫌なんだけど……。
やっぱりシェンナは自分の部屋から出てこないみたい。
「バイバイ、シェンナ! もう行かなきゃ」
聞こえるように大声で言って、ボクは玄関を出た。
リーリムさんが待つ馬車の方へ歩き始めたら、突然後頭部に何かがぶつかった。痛い。
ビックリして振り返ったら、シェンナがこっちを睨んで立っていた。何かを投げつけてきたらしい。
足元を見たら、キレイに包装されて、ピンクのリボンで留めてある、小さい箱が落ちていた。
「バイバイなんて、軽すぎない?」
鼻声だ。目も赤いみたい。泣いてたのかな?
と思ってたら、何も聞いてないのに「花粉症よ」だって。あ、そう。
「それ、餞別にあげるわ。用意するのに、時間かかっちゃった。後で開けて」
ボクは小箱を拾って言った。
「ありがと。今度遊びに来て」
「当たり前よ。都会に知り合いが出来るなんてラッキーだわ」
シェンナはそう言って笑う。そんな表情、久しぶりに見たような気がする。
「じゃあね、またね」
「うん、またね」
ボクらは、いつもみたいに手を振って別れた。
いつか、またね。



選択肢
シェンナから貰ったのは?
1.可愛らしいアクセサリー
2.物騒な武器
3.あの日の思い出