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それは、髪の長い女の人だった。
ボクらの町の人ではない、と思う。
だって、着ている服が違う。
うちみたいな田舎では手に入れるのも難しい、高そうなシャツとスカート。華奢な肩を、ストールが優しく包んでいる。
そんな感じの、シンプルなんだけど上品に洗練された都会的センスあふれるキレイな人が、泉のほとりに立っていた。
憂いを含んだ瞳っていうのは、きっとこういうのを指すんだろうなぁ。
長いまつ毛をふせるように、彼女は泉の水面を眺めている。
「あの、こんにちは! こんなところで、何してるんですか?」
シェンナが声をかけると、彼女は驚いたように振り返った。
「ごめんなさい。少し考えごとをしていたの」
ニコッと笑った顔を見たら、ボクが最初に思ったよりもずっと若いみたいだった。
きっとハタチくらいかな?
「キレイね。こんな澄んだ泉、王都では見かけないから、つい見惚れちゃった」
泉は結構深い底の方まで、碧く透き通って見える。
沈んでる石の影まではっきり見えるから、かなり透明度は高いんじゃないかな?
魚がお腹をきらめかせながら、飛ぶように泳いでいた。唐揚げにすると美味いヤツだ。釣り道具でも持ってくればよかった。
「いけない! そろそろ行かなくちゃ」
懐中時計をパチンと閉じて、彼女はボクらに向き直った。
「ねぇ、あなたたち、ササの町の子?」
シェンナとボクは、二人で頷く。
「そう。……だったらまた会えるかもね」
思わせぶりにそんなことを呟いて、彼女は森の道へと見えなくなった。



選択肢
次回、アリルはどこで彼女と再会する?
1.ササの町の中
2.何度か話題に出た王都
3.いっそ異世界