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着替えを済ませて階段を降りると、人ん家のソファで勝手にくつろいでたシェンナがビックリするくらい不満そうな顔をした。
「つまんない格好! 何でもっとオシャレな服とか着ないかなぁ? アリル、顔はそこそこ悪くないのに」
「うるさいなぁ。森に行くのにオシャレしてどーすんの? 誰も見ないよ」
そう言い返して、テーブルの紙袋から昨日買って置いてたパンを取り出した。
シェンナはまだ口をとがらせてるけど、それ以上は絡んでこないみたいだった。
……ちょっとホッとした。
ホントはボクも、オシャレに興味がないわけじゃない。
だけど、選んでる途中でよく分からなくなっちゃうんだよね。
例えば、可愛いを目指せばいいのか、カッコいいを目指せばいいのか。
もう、そんな初歩の段階でつまづいてたりする。
ボクの場合、どっちを目指すのが正解なんだろう?
モヤモヤ考えながら、パンを口に運んだ。
美味い。
このナッツ類の絶妙なハーモニーがバターのコクやらまろやかさやらと溶け合って、馥郁たるなんたらで、うん、美味い。
「そういえば」
シェンナがキョロキョロ辺りを見回してる。
「博士いないけど、今日もお仕事なの?」
「うん、急に出なきゃいけなくなったみたいだよ」
「へぇー、学者さんって大変だねー」
博士っていうのは、ボクの保護者のリーリムさんのこと。
その道では知る人ぞ知るような有名な学者らしい。
その道ってのがどの道なのか、ボクには難しすぎて分からない。
魔法がどんなシステムで発動するのか? とか、魔力の正体? とか、何かそんなようなことを研究してるみたいなんだけど、そんなの分かんなくても魔法使いなら普通に魔法は使えるもんだし、必要あるのかなぁって思う。
頭いい人の考えることは謎だらけだ。
ともかく、リーリムさんは昔王国に仕えてたほどすごい人だって、学校の先生たちが言ってた。
今はこんな王都から程遠い田舎に引っ込んでるけど、時々わざわざ違う街から人が訪ねて来るくらいに偉い学者なんだって。
普段、うちにいる姿からは想像しにくいけど。
「じゃ、行こうか。採って来る薬草って、何てヤツ?」
ボクは空になった紙袋を丸めてゴミ箱に放り投げた。

青々茂った森の木陰は、ヒンヤリしていて気持ちいい。
今ボクたちは、町のとなりにある森の中を、図鑑片手に歩いてる。
来週の初級魔法薬学で使う材料が森の中に普通に生えてるって聞いて、採りきたんだけど。
「今の時期、生えてないのかなー?」
すぐに見つかるもんでもなかったみたい。
シェンナは道端の花を摘んで、器用に腕輪を編みはじめた。探すのに飽きてるんだ。
ボクも疲れてきた。
薬草用の代金をそのままおこずかいにできるチャンスなんだけど、もう諦めようかな?
そう思いながら図鑑の説明を読み返してみたら、あっさりヒントが見つかった。
「あ、水際に群生だって。じゃ、泉の方にあるかもね」

こんな風にして泉に向かったボクたちは、そこで思わぬ先客に会うことになったんだ。